被せ物の前に行う予防的な根管治療の意義:病気がなくても根管治療は行うべきか?意思決定の考え方
- 投稿日:2023.03.18
- カテゴリー:コラム
予防的根管治療とは?
こんにちは。目白マリア歯科院長の宮澤です。今回は予防的な根管治療についてお話します。
既に根管治療が施されている歯の被せ物をやり替えるとき、根尖性歯周炎は根尖に確認されなくても、予防的に再度根管治療を推奨される場合があります。
このような治療を「予防的根管治療」といい、将来的に根尖性歯周炎を誘発させないために行う根管治療を指します。
例えば、以前の根管治療の質が良い状態ではない(質が低い)ことが予想されるのに、そのまま新しい歯の被せ物をセットする場合のリスクとしては、下記が考えられます。
■後に根尖性歯周炎を発症する可能性が比較的高いと考えられる
※病気なしの場合は90%以上の成功率がありますが、病気有りの場合成功率はしっかりとした環境で行っても40%―80%くらいまで成功率は低下してしまいます。
■根尖性歯周炎が発症した場合再治療が必要となり、せっかく入れた被せ物が無駄になってしまう
※セラミックなどの高額な被せ物の場合には、作り直しの費用も患者様の大きな負担になってしまいます。
■根尖性歯周炎が発症してからの再根管治療は、病気の発症前に行う根管治療よりも、成功率が下がる
「予防的根管治療」では、早い段階で確実な質の高い根管治療を施すことで、再治療を少なくすることを目的としています。
それでは、予防的根管治療の考え方について、詳しくご説明いたします。
予防的根管治療が必要になる、質が低い根管治療とは何か?
画像はイメージです
①以前の根の治療(根管治療)でラバーダムを使用しないで治療された場合
②根尖性歯周炎が確認される場合
などを指します。根尖性歯周炎は根管内の細菌の有無で発症するかが決まるため、無菌的な環境で治療されていないことや、もちろん細菌の存在が確認できる有病(根尖性歯周炎)の状態は質が低い根管治療だと言えるでしょう。
当院へ相談に来られる患者様で「根の先にお薬が入っていないから」という理由で根管治療を勧められたという方が多くおられますが、お薬が入っていなくても根管内が無菌的な状態でさえあれば、根尖性歯周炎は形成されないので、ただ「レントゲンで薬が入っていない」ことがイコール「質が低い根管治療」とは言えないのです。
しかし、残念ながら日本の歯科医院のラバーダム装着率は低く、必ず使用している歯科医院は5.4%程度で、無菌的な配慮をして治療している歯科医院は非常に少ないのが現状です。そのことをふまえると、既に根管治療を施された歯のほとんどは質の低い根管治療であることが予想されます。また、不適物(適合の悪い)の被せ物を除去した際には虫歯が確認されることも多く、根に細菌が侵入している可能性は否定できないのです。
わが国における歯内療法の現状と課題
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jeajournal/32/1/32_1/_pdf
根管治療の質と被せ物の質の、根尖性歯周炎への影響について
M.Tropeらの研究で、テンプル大学に来院した1010人の患者のX 線記録から根管充填と歯冠修復(被せ物)の質を評価し、根尖性歯周炎の有病率を調査した文献があります。その中で、根管治療の質と被せ物の質はどちらがどれだけの影響を与えているか判断することは難しいが、少なくとも両方の因子が影響を与えていると述べています。
この研究結果からも、より予後を良くするためには被せ物の質を良くするだけ、または、根っこの治療の質を良くするだけでは不十分で、両方の精度を上げることが大切であることは事実です。
○赤丸は質の良い根の治療(根管治療)と質の良い被せ物の場合の成功率(根尖性歯周炎が確認されない率)
○青丸は質の悪い根の治療(根管治療)と質の悪い被せ物の場合の成功率(根尖性歯周炎が確認されない率)
参考文献:Periapical status of endodontically treated teeth in relation to the technical quality of the root filling and the coronal restoration (I E J1995)
上記を、分かりやすくまとめた表をご覧ください。
根管治療の質 |
クラウン(被せ物の質) |
成功率 |
良 |
良 |
91.4% |
悪い |
良 |
67.6% |
良い |
悪い |
44.1% |
悪い |
悪い |
18.1% |
文献より目白マリア歯科が作成
この文献が示唆するように、歯の被せ物をセラミックにしたものの、根管治療の質が低く再治療になることは多くあるのです。
根管治療を専門に行う歯科医師を選んでいただきたい
当院に来院される方の一部分の方々は歯科医師により被せ物を交換後、根管治療開始後に今まで感じていなかった違和感や腫れ痛みを抱えていらっしゃいます。
最近では根管治療の専門知識や経験・技術がなくとも顕微鏡(マイクロスコープ)があることで自費の根管治療を行う歯科医院もありますが、歯を大きく削られてから転院してこられる方や保存できる歯も抜歯の宣告を受けている方、治療を行っても治癒しないという症例が最近特に増えてきたと感じております。
しっかりと治療を行う先生もいらっしゃる中で、こうした歯科医院が増え、以前のインプラント治療の時のように多くの患者様に被害が出ないことを切に願うばかりです。根管治療専門(歯内療法専門)の歯科医師は根の治療(根管治療)以外は行うことはありません。病院選びは非常に難しいかと思いますが、参考にしていただければと思います。
当院では根管治療後2年間の経過観察によるフォローアップと、5年間の被せ物の保証でしっかりと予後経過を確認していきます。
根管治療についてお困りの方、気になることがある方は「精密根管治療初回カウンセリング」にお越しください。
院長 宮澤 仁
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